Pat And The Wildcats – The Giggler



 50~60年代の音楽に限っていうなら、インストゥルメンタル・ミュージックが好きだ。良く言えばミニマルで簡素。悪く言えばチープでイージー。音的に骨格だけで、取り立てて演出があるわけでもないのに、何故か惹き付けて止まない魅力がある。ガレージ感覚を突き詰めていくと、この時代のインストゥルメンタルにたどり着くのではないかと、時々考えることがある。チープであるからこそ、本領を発揮する世界。B級グルメとか低予算映画も好みだったりするが、恐らくこの類いであるに違いない。逆にいえば、根があんまりゴージャスなものを受け付けない体質なんだろう。
 さてさて、当初は今熱いというか個人的に盛り上げたいTittyshakerについてまとめるつもりだったけど、その世界観を説明しようとするとヘンに身構えてしまって一向に進まない。なので、枠を広げて身近にある好きなものからピックアップしてみた。インストゥルメンタルといってもさまざまだけど、これはホラー系になるのかな。サウス・カリフォルニアの兄弟デュオ、Pat And Lolly Vegasが変名で発表した一枚である。
 Pat And Lolly Vegasといえば、最も知られているのが66年リリースのアルバム『At The Haunted House』になるだろう。しかしそれ以前の60年代初頭に、セッション・プレイヤーとして数々のレコーディングに携わっていた。有名なところでは、サーフ・ムーヴメントの初期に属すRoutersやMarkettsなどがあるが、正規ながらマイナーで不明瞭な音源の方が多く、ディスコグラフィーは未整理のままだ。
 ちょうど2年前、Cramps研究の第一人者であるKogarが「とんでもないレコードを発見したぞ!」とばかりに、このディスクをブログで取り上げた。奇妙でユニークなキャラクターゆえにクリーヴランドの人々から愛されたDJ~ホラーホスト、Ghoulardiがこのナンバーを番組で好んで使用していたということが最近になって判明し、発掘に至ったというのだ。そんなものが今の今になって、と驚いいたのもつかの間、未知のディスクはガレージ・ファンの間に瞬く間にして伝わり、気がついた頃には知る人ぞ知る一枚となっていた。それまでは誰も気に留めなかった音源が、ある機会を経たとたんに至宝の如く扱われる。レコード音源にまつわる再評価現象の典型というやつを目の当たりにしたボクは、渦中に巻き込まれるように一緒になって興奮していた。
 そのサウンドはCrampsファンはもちろんのこと、インストゥルメンタル・フリークを熱狂させるに相応しいクオリティを有していた。「ギギギ」とドアを開け、薄気味悪い笑い声のエフェクトからホラー調のフレーズを挟み、のし歩くように曲が展開していく。サーフのセッションで腕を鳴らしたミュージシャンのわりには、ずいぶんと粘っこい感触がある。その粘着的なフレーズゆえか、一旦耳にこびりつくと離れないのだ。
 裏面のタイトルは「Green Tomatoes」。既にニヤリとした方もいるだろう、Booker T「Green Onions」の安易なイミテーションである。USインストゥルメンタルの世界では「Tequila」のパチモンが相当な数で出回っていることは周知の通りだが、「Green Onions」のパチモンの数も膨大である。当時の演奏者の立場からすれば、中毒的ともいえるあの反復リフを一度は真似してみたくなるのだろうか。いかがわしさという意味で、本家を超えてしまっているところが微笑ましい。とにかく、ピッツバーグ・クラシックのJimmie Heap「Gismo」にも匹敵し得る、「自分のテイストど真ん中」なインストゥルメンタルの逸品である。

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